“書くことの目的はまず第一に、愚かな自分自身の救済だ”
チャールズ・ブコウスキーの言葉
お店データ
場所:札幌すすきの
支払った総額:17,000円(60分)
フリー or 予約:フリー
営業時間:8時~24時
入店時間:平日22時頃入店
待ち時間:5分
混み具合:他に1人
お店の雰囲気と店員さん
今夜もおれは深夜のすすきのを彷徨っていた。滑り止めの砂利を踏みながら、夜の街をぐるぐると回り続ける。雪国向きではないおれの革靴はサンダル並みに寒さを足先に通した。飲食店と風俗店がモザイクのように入り乱れているすすきの。何の下調べもしていないから店が決められない。何度も同じ道を歩いている。さっきまで夜の8時だったのに、もう10時近くになっていた。何件かの店に入ったが、既に予約がいっぱいで誰も空いていないと言われた。
風俗ブロックを外れたところでふと顔を上げると、「ピンキー」という看板の店があった。閉店した激安店らしい。
Déjà vu?
ふと、ずっと前に今と同じ場所に立っていた感覚が閃いた。この店をどこかで見たことがある感覚。
いや、既視感ではない。おれは確かにここに来たことがある。そうだ。ここはあの時のお母さんの店だ!おれはここでママと会ったんだ。なんと懐かしい・・・そうか、潰れちまったのか。というか最近まで営業していたような雰囲気だが、この時代まで生き延びていたのか。
お母さん、アリエーネ・ドヴスヴィッチ、また別のお母さん。おれはすすきのでろくな経験をしていない。むかし知り合いに九州に行くたびに台風に遭って帰りが遅れるという男がいたが、おれは北海道に来るたびに不発弾を踏んでは、傷を負っている。
記憶に引っかかっていたわだかまりが解けたように、なぜかおれの足は軽くなり、目に付いた最初の店に入った。それが、アクアだった。その店はいくつかのソープ店が入っているビルの一番上の階にあった。エレベーターに乗ってソープに行くのは奇妙な気分だった。エレベータから出ると、目の前に開かれた店のドアがあった。店員に予約がないことを伝えると、今日入れるのは3人いると言われた。1人は11時過ぎ、2人はすぐに入れる。すぐに入れる2人のうち1人は18歳だった。
18歳だと?
おれが18歳のとき以来、縁のない人種じゃないか。18歳と風呂に入れる権利がおれに残っていたのか。
もう1人の写真を見た。20過ぎだった。写真を見る限りでは18歳のほうが落ち着いて見える。数字さえ見なければ、この2人に年齢差は感じられない。おれはほぼ迷わず、18歳を選んだ。
細長い部屋で案内を待った。おれの後にもう1人おっさんが来た。
サービス
店員に呼ばれ、ご対面の時間になった。そこにいた女は確かに若かったが、地味で可愛げのない女だった。明るさと友人が不足していそうな、無愛想な女だった。
どうやらおれはこの街に歓迎されていないようだ。
女の顔を見ておれはそう悟った。
女は大学生だった。世の中のほとんどの18歳と同じように、自分の話しかしなかった。どうしてここまでつまらない話ができるのだろうと思うほどにつまらなかった。おれたちは別々に服を脱ぎ、風呂場に行った。女はおれの体を洗い、おれに風呂に入るように促した。やつは入らない。それで構わない。おれは湯船で足を伸ばし、2メートル先の女と退屈な会話を続けた。やつは義務で話しているような当たり障りのない話をしていた。
風呂を出て、体を拭き、ベッドに横になる。女はまだ自分の体を拭いていた。
天井を眺めながら、これまでの人生におけるいくつかの最悪のソープ体験を思い返していた。アリエーネ・ドヴスヴィッチとジ印、それとマンダリンのあの高飛車な女。他にもあったかもしれないが、これがおれの三大禍だった。ろくなソープ人生じゃねぇな。こんな女といると、すべてを否定的に考えてしまう。そして今日新たな忌々しい出来事がおれの記憶に刻まれようとしている。
女はなぜか右手に白いタオルを持って、ベッドに上がってきた。キスなんてしない。するわけがない。乳首を舐めてフェラチオを始めた。単調なフェラチオだった。勃起をするはずもなく、おれは勃起してほしいと思わなかった。いつこの部屋を出るか?ということを考えていた。
天井を見つめながら、視界の隅っこにいる女の動きが少しおかしいことに気付いた。どこか不自然だった。
あれはおれがソープランドで体験したもっともバカバカしい行為だった。誰かの、ここまでバカげた行為を見ることは滅多にないから、どうリアクションをすればいいのか酷く戸惑った。
女は、ペニスを口に咥えて1度頭を縦に振るたびに、タオルに向かってつばを吐いていた。
咥えて、頭が一往復する。そうすると、口を離して顔の横に置いてあるタオルに吐くのだ。それを何度も何度も繰り返していた。今まで見たことも、聞いたこともない行為だった。なぜこいつはこんなことをするのだろう?当然ながら、疑問に思った。おれが推測できた答えはひとつだけだった。おれの欠片を、存在しうる最小単位でさえ体内に残したくないのだろう、ということだった。フェラチオによって彼女の口内に残る一切のチナスキー的要素を吐き出そうとしているわけだ。
そんなに嫌だったらゴムを被せればいいのに。なんという非合理的で、愚かなことをする人だろう。この女はどういう理由でソープで働いているのだろう。ここまで嫌な仕事でも、しなければならない境遇に生きているのだろう。
哀れな18歳の若い女。
そう思った。汚ねぇおっさんのエキスを排出しようと必死にタオルに唾を吐いている。それでも金を稼がなければならない。彼女は普通の大学生にしか見えない。特別な贅沢をしているようには見えない。家庭環境か運が悪いのか。多分、18年かそこらの人生のどこかに彼女の責任ではない間違いがあったのだろう。
社会保険料みたいなものだ。2万円前後のソープ代が払える程度には豊かで健康に恵まれているおれが、恐らくここまで嫌いな仕事をせざるを得ない彼女に払う社会保険料だった。役所と呼ばれるブローカー集団のマージンがない分、彼女に金が多く渡る。人はそれをソープ税と呼ぶ。
あるいは、おれはそう思いたかっただけなのかもしれない。この女を不幸な人間と決めつけて、胸クソ悪い接客の理由に当てはめたかっただけかもしれない。
いずれにしても、彼女はひと口くわえては唾を吐き続けた。無言で。
しかし、ここまでペニスを萎えさせるフェラチオも珍しい。どんなに精神的なダメージを与えたとしても、それが健康な現役の男だったら、物理的な刺激で多少は勃起をするものだ。今夜のおれのペニスの反応は完全に無だった。ゼロだ。おれはやつにコンチーナ・ドヴスヴィッチの名を献上することにした。
もしかすると攻めたら勃起するかもしれない。おれはフェラチオを切り上げさせ、攻めるポーズを見せた。彼女は仰向けになった。
「ソフトにしてね」
こういう類が言いそうなことだ。おれはキスをしてみた。コンチーナはそれを固く閉ざした唇で受け止めた。そして枕の隣に準備していたタオルに口をつけた。
自分というソープ客をここまで拒絶する存在がいるとは。おれは挫折とも呼べるような落胆を覚えた。
「帰る」
反射的にそう言った。女は「え?」という顔をして、「帰るの?」と言った。おれは立ち上がり、服を入れたかごに手を伸ばした。
「体は洗わなくていいの?」
「いや、そのままでいい」
コンチーナの口調は3割り増しで丁寧になっていた。とにかくおれは1秒でも早くそこを出たかった。おれは若くない。彼女よりも残された人生が短い。おれの時間は彼女のよりも貴重なのだ。
おれは彼女を急かすためにそそくさと服を着て、コートのボタンまでしめた。彼女は自分の体を洗うと言って風呂場に入った。やつが体を洗う時間が苛立たしかった。おれは立ち上がって無言のプレッシャーを与えた。構わずに体を洗う女。真っ直ぐ帰りたいだけなのに、なぜ待たなければならないのか。やつは自分のペースで体を拭き、服を着た。
受付前に戻るとアンケートを渡された。確か90点くらいだったか。おれは当たり障りのない回答記入した。2度と来ないのに改善を要望する意味がどこにある?
でも、たったひとつ疑問に思ったことがあった。アンケートの紙を返しながらおれは店員に聞いた。
「彼女にリピート客はいるのか?」
「うーん、そうですね・・・ちょっと気分屋なところはあるかもしれませんね」
回答になっていない回答だが、事情は理解できた。おれは店を出て雪の降る札幌の街を歩いた。わざわざすすきのに歩いていけるホテルを選んだ結果がこのざまだ。
4人。おれが札幌のソープで会った女の人数だ。その中でもっとも良かったのが20年以上前のあのマダムとはな。そもそも最後まで導いてくれたのが、あのお母さんだけだった。なんてざまだ。
まとめ
札幌に行くたびに忘れたくなるような体験を重ねていく。なぜだろう?おれが悪いのだろうか。
なぜ、コンチーナなのかって?人に聞く前に、先ずはWikipediaの「松本コンチータ」を調べてくれ。ちなみに、コンチーナは既にアクアという店を退店している。おれにとってはどうでもいい話だが。
5段階評価
総合満足度:1
費用対満足度:1
ボーイさん:評価なし
女の子ルックス:1
スタイル:3
サービス:1
嬢の印象:美しくない
写真とのギャップ:覚えていない
チナ氏があまりにもかわいそうです。川崎のソープに良さそうな店が有ります。近場で探しましょう。
親父さん、優しい言葉をありがとうございました。川崎の良さそうなソープ店を教えてください。
マラナメ教教祖…笑 それにしてもススキノはチナスキーさんに試練を与えてきますね… 2代目ドヴスヴッチもヤバ過ぎます
チーバさん、いつもそうなのですが、当日になって店を探し始めるのが悪いのかもしれません。
いいトシこいてる年代なら、18歳と交わせると聞けば選びたい誘惑に駆られるのは致し方なき事です。
しかしこの18歳はいささか毒が強かったようですね。ご心中後悔の念、察するに余りあります。
チナスキー総帥の筆致は読む者になにがしかの感銘を与えてくれますが、とりわけ敗戦の際のソレからは自分の苦い経験を思い起こさせる効能があり、読んでいて「痛ててて!」と心に痛みが走ってしまいます。私の味わった若く、しかも酷い地雷だった幾人かの嬢を彷彿とさせてしまうのです。
あぁ、次回こそは格安か大衆クラスの成功譚を拝読したいものです。
青の9号さん、コメントありがとうございました。風俗客であれば誰しも地雷を踏んだ経験があり、失敗談こそ共感を生むのでしょうね。